社会科学方法論

先日図書館で、田村正勝先生の「社会科学原論講義」早稲田大学出版部(2007)を見つけた。
遠い昔、早稲田大学理工学部から他学部聴講で田村先生の「社会科学方法論」を聞くために、私は1年間「社学」に通った。電気工学科に在籍しながらも浅羽通明「ニセ学生マニュアル」や筒井康隆文学部唯野教授」などを面白がって読んでいた自分にはとても有意義な時間だった。
ギリシャ哲学、ヘーゲル弁証法アダム・スミス国富論マルクスケインズの経済学、そして日本の思想、などなど。一人の先生の一つの講義がここまでいろいろな話題に触れられて(ほとんどノートも見ずにお話になっていたと思う)、それが毎回毎回、現代の日本と世界の問題を鋭く分析するツールとして機能していたことに感銘を受けた。
その講義が(この十数年の政治や経済の問題に対する鋭い論考を付け加えつつ)こうして一冊の本にまとまって読めるのは、ありがたいことだ。
田村先生の講義で出てきたいくつかのキーワード、例えば「偶然は必然と必然の交である」といったことは今もよく覚えている。
あるいは「社会科学の優れた理論は、その理論そのものが社会を変えてしまう。そしてその理論が成り立たないような社会がやがて実現されてしまう」といったパラドックスも、その後の人生と経験の中で、何度も、思い当たる節があると感じた。
通勤時間に読書するには物理的にも内容的にも重い本だったが、拾い読みをしているだけで、なにかとても温かくて真っ直ぐな気持ちが蘇った。